観察対象の選定理由

「むし」について

 地球温暖化が進むと、昆虫類の生息分布や発生期は変化します。なぜなら昆虫が繁殖できる環境は、気象や気候の条件に左右されるからです。また昆虫の卵から成虫までの発育期間や発生期が、気温や日長によって変わる性質をもっているからです。
 けれどもこうした変化の原因になるのは、温暖化だけとは限りません。人が物資とともに昆虫を運んだり幼虫の餌になる植物を広げたりすることによっても、昆虫の分布は変わります。変化の真の原因をつきとめるには、たくさんの情報が必要です。多くのみなさんから情報をいただくことで、その原因に近づくことができます。
 ところが昆虫は種類が多く、同じ種類に見えるものの中にちがう種類がいくつか含まれていることがあります。そこでこの調査では、サイズの大きな身近でよく見られる昆虫で、経験があまりなくても見まちがえることの少ない昆虫を選びました。温暖化で注目されている昆虫はほかにもありますが、この調査では多くのみなさんから情報をいただくことでわかってくることを、一緒にさぐりたいと思います。

春:冬から春にかけての気温の変化は、チョウの発生時期に現れます。

ナミアゲハとキアゲハ
蛹の状態で越冬します。羽化して成虫になる時期が冬から春への気温の指標になります。両種を見分けることで、虫を見分ける面白さを実感しましょう。
ツマグロヒョウモン
近年大きく分布を広げた暖地性のチョウです。幼虫の状態で越冬します。羽化して成虫になる時期や場所が、冬から春にかけての気温の指標になります。
ウスバシロチョウ
山地に多いチョウですが、近年分布を広げています。チョウの研究者もその原因に興味をよせています。一緒にその実態に迫りましょう。卵の状態で越冬します。

夏:虫たちの最盛期、地域による気候や温暖化のちがいを解明しましょう。

ナガサキアゲハ
近年分布を北に広げている暖地性のチョウです。温暖化が主な原因とされています。信州では南部で見られます。これからの変化を一緒にとらえましょう。
クロコノマチョウ
近年分布を日本列島で南北に広げているチョウです。信州では南部から北上しており、年によっては松本市でも確認されています。これからの変化をとらえましょう。
クマゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ
セミの種類は国内の地域によってちがいます。南方系のクマゼミが近年分布を北に広げており、温暖化との関連が議論されています。都市化などの環境変化がセミの構成を変えるともいわれます。信州での実態をとらえ、地域間で比較しましょう。

秋:虫たちが姿を消す時期は、夏から秋、そして冬への気象の変化を映し出します。

アサギマダラ
渡りをするチョウです。秋に信州など日本本土から南西諸島や台湾などに飛んで行きます。秋のいつごろまで信州にいたかを調べましょう。
ツマグロヒョウモン
近年北上したチョウです。春の調査にも登場しました。成虫は春から秋まで何度か発生し、幼虫の姿で越冬します。いつごろまでどこにいたかを調べましょう。
キイロスズメバチ
獲物となる虫の多い夏に巣を大きくします。秋には巣がからっぽになり、新女王が朽木や土の中で越冬します。軒下などの巣にいつまでハチがいたかを調べましょう。

冬:暖かい日が多くなると、冬でもチョウを見ることが多くなります。

冬のチョウ
チョウのなかには成虫の姿で越冬するものもあります。気温が高い日には、これらのチョウが外に出てきます。地球温暖化が進むと、そういう日が多くなるはずです。また年毎の終見日がおそくなり、初見日が早くなるはずです。そうした大きな変化を大勢の目でとらえましょう。

「雪や氷」について

 地球温暖化による気温の上昇は直接目にすることはできませんが、そのサインを見つけることは簡単にできます。雪や氷は、長野県に暮らす人々にとって身近な現象であると同時に、その変化は温暖化とも非常に深く関係しています。たとえば、雨が雨のまま降るか、それとも雪として降ってくるかは上空の気温によって決まりますし、氷が張るのか、張らないのかも、朝の最低気温が大きく関わっています。このように、「雪と氷」は、身近にあって誰にでも観察しやすく、そして温暖化と密接な関係がありますので、絶好の観察対象となっています。

◯◯山の残雪がなくなった
山の雪解けのタイミングは、その冬に降った雪の量と春先の気温によって変化しますので、温暖化の良い指標になります。自宅や職場の近くから、雪をかぶった山が見えましたら、定期的に写真をとって観察してみるのもいいでしょう。また、長野県には有名な「雪形」がたくさんあります。山全体を撮影できなくても、雪形など撮影する対象を絞ってもかまいません。

初雪(山の初冠雪、庭の初雪など)
初めて雪が降った日や山が白くなった日は観察しやすいと思います。温暖化が進むと初雪は遅くなりそうですが,必ずしもそうとは限らないようです。自分の住む地域では、初雪のタイミングがどのように変化するのか調べてみると新たな発見があるかもしれません。

池や湖の氷
冷え込みが続くと池や湖には氷が張ります。温暖化によって、結氷する日が遅くなったり、氷が張らなくなったりすることが考えられます。御神渡りで有名な諏訪湖では、最近、結氷しない年が増えているようです。まずは近くの池や湖で初めて氷りが張った日を調べてみましょう。